ドナ・サマーは器用なヴォーカリストではない。いわゆる本格派ソウル・シンガーのもつディープな味わいを彼女に望むべくもないが、バックのサウンドによって、その歌の魅力がキラキラと輝き始めるのだ。それが、ドイツのレーベル<カサブランカ>専属のプロデューサー・チーム、ジョルジオ・モルダー/ピート・ベロッテが創出したミュンヘン・サウンドである。4つ打ちビートに華麗なストリングスを施し、シンセサイザーやギターによるロック的な彩りを加えたディスコ・ミュージックは、サマーの歌声と抜群の相性をみせたのだ。そして「愛の誘惑」(75年)、「恋はマジック」(76年)といったナンバーは、ストロボ・ライトきらめくフロアを熱狂の渦に陥れたのである。米国人でありながら先にヨーロッパ周辺でブレイクを果たしたサマーは、その後も凛とした熱唱を武器に次々とシングルをリリース。「マッカーサー・パーク」(78年)、「ホット・スタッフ」「バッド・ガール」(共に79年)などのビッグ・ヒットを放ち、世界的な人気を獲得していった。以後もクインシー・ジョーンズやハロルド・ウォータメイヤーらをプロデュースに迎え、ヒットも放つが、やはり彼女のキャリアのなかでは、<カサブランカ>時代がハイライトと言えよう。